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もう少し後なら、バレンタインだった…。
恋愛イベント事とは無縁な生活をしている自分が、こういう時ダメだなぁと思います
今日はSSをアップです!
巴紋のその後で、昼リクが鴆のために、チーズケーキを作ります鴆が甘いものを食べるかはわからないですが…。昼リクがくれたものなら、食べてくれる…よね?
最後に、拍手をぽちっとしてくださった方、いつもありがとうございますv
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「あめぇ匂いがするな…」
ぽつりと呟いた青年が、赤い目を細める。
精神世界でのことだというのに、相変わらずこの世界の月は現実と同じように満ち欠けしている。
今宵は、初月。
右に弧を描いた月は弱い光を放ち、青年の銀髪を淡く浮かび上がらせる。
「何をしてたんだい、昼?」
とろりとした声は、絶対に使い方を間違えていると昼のリクオは思う。
自分は女の子ではないというのに。
「ちょっとお菓子を作ってたんだよ」
「菓子?」
「うん。鴆くんに差し入れしようと思って」
まだ途中だから、明日の朝作らないと。
昼のリクオは笑った。
「菓子、ねぇ…」
興味なさそうに呟く夜のリクオに、昼のリクオは浮かれていた己が恥ずかしくなった。
「もう寝ろ」
夜のリクオが昼の額に手をあてると、先ほどまでの興奮が嘘のように力が抜けていく。
どんな力を使ったのか、突然の強い眠気に抗えない。
まどろみのなか、昼のリクオが見たのは、感情の読めない夜の赤い目だった。
【巴紋 ~その後~】
夜明けをしたばかりの朝。
まだ薄暗い台所はひどく冷える。
羽織った上着を胸元で合わせて、昼のリクオは肩をぶるりと震わせた。
「え…」
足が止まる。
机の上。思わぬものを見て、固まった。
ケーキである。
昨夜昼のリクオが下準備をして、今朝作る予定だったはずの…思い描いた完成予想図のままのチーズケーキがそこにあった。
「なんで…」
ケーキを作るなど、誰にも言っていない。
しかも、昨夜は遅くに台所を出たから今朝昼のリクオが入ってくるまで誰も立ち入っていないはずだ。
母親だって、まだ寝ている時間。
他に台所に出入りする雪女、毛倡妓だって途中で放置してあるケーキの続きを作ったりしないはず。
そこで、はっと気付いた。
そういえば、一人だけ、昼のリクオがケーキを作ることを知っている人物がいる。
「夜…」
呟けば、頭の中で笑う声した。
『上手くできているだろう?』
普段なら、この時間は夜のリクオに主導権がある時間。
だからなのか、できないはずの会話が頭の中で響く。
「やっぱり夜がケーキを作ったの?」
『ああ…』
罪悪感もなにもない声に、昼のリクオは苛立ちがこみ上げる。
鴆に食べてもらうために何回か練習して、ようやく今日本番を作るつもりだったのに。
自分の作ったケーキで、鴆に喜んでもらいたかったのに。
「夜!なんでボクが作ってたの、邪魔したの!」
『いいじゃねーか。上手くできたんだから』
「よくないっ!!」
苛立ちをぶつける物も相手も目の前にない状態では、昼のリクオの百面相にしか見えない。
早朝の台所に誰もいないことが幸いだ。
「だいたい、なんで夜がケーキ作れるんだよ。作ったことないでしょ」
このケーキはリクオがレシピ本を見て、何回か練習して作れるようになったものだ。
それでも、いまだに三回に一回は焦がしてしまう。
それなのに、夜の作ったケーキは完璧な状態で、机の上にのっている。
『俺はおめぇと知識も能力も共有してるんだ。おめぇにできて、俺にできねぇわけがないだろ』
なんとも苛立つ答えだった。
昼のリクオは側にあるフォークをむんずと掴むと、ケーキの角を掬った。
『あ、てめっ!!』
夜のリクオの制止も聞かず、大口を開けて昼のリクオはケーキを食べた。
さすがに一ホールすべてとはいかなかったが、四分の一程度は食べた。
『…ま、いいか…』
頭に小さく響いた夜のリクオのほっとした声など、昼のリクオには届かない。
そして、いつの間にか夜のリクオは眠りについていた。
(帰りにケーキ買って行こう)
同じリクオとはいえ、なんとなく夜のリクオが作ったものを鴆に差し入れするのは嫌だった。
その後、一連の話を聞いた鴆はひどく困った顔をしたが、昼のリクオが作る予定だった手作りケーキが食べられなかったことは残念がってくれた。
知識も能力も共有している。
しかし、感情だけは共有できなかった。
『おめぇの作ったもんを他の奴に食べさせるのが嫌だったなんて』
言ったら、昼のリクオは迷惑だろうか。