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「契り」後編あっぷですv
なんだか、夜が私のイメージからどんどん離れていく気がします
もっとかっこいい…夜の象徴って、イメージなのになぁ。
昼のリクオをめぐって、夜が無意識にカナを敵視してると楽しいです♪
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妖怪が、断末魔の悲鳴をあげて倒れた。
夜は鍔のない刀を鞘に収めながら、得意げに笑って昼を見た。
【契り2】
悲鳴が消えると、理科室には静かさが戻ってきた。
当初は不気味に響いたコポコポという水槽の酸素ポンプの音さえ、今では落ち着いて聞ける。
「ありがとう、夜。助かった…」
昼は夜を見上げて言った。
夜はにっと唇を引くと、腰を屈めて昼の怪我を見ようとした。
「リクオくん!!」
カナが駆け寄って、心配そうに昼を見つめる。
夜はムッとした顔をして、手を止めた。
「怪我見せて」
しかし、カナは夜を気にすることはなく、夜より先に昼の腕をとる。
スパっと切れた腕の傷とそこから流れる血を見て青褪めた。
「ど、どうしよう…すごい血…」
「カナちゃん」
夜がカナを呼ぶ。呼び方は幼い頃のままであるが、声が硬い。
カナはきょとんと夜を見上げた。
誰だろうという顔に、リクオはもしかしてカナが小さい頃三人で遊んだことを忘れているのかなと思った。
「ハンカチあるか?こいつの手当てするから、濡らしてきて」
本人は睨んでいるつもりはないだろう。
しかし鋭い眼つきは、女の子を怖がらせてしまう。
カナは固まってしまった。
「カナちゃん、大丈夫だよ。夜は怒っているわけじゃないから」
「う、うん…」
リクオが柔らかい声で言えば、カナは躊躇いがちに頷く。
「ハンカチ濡らしてくるね」
カナは花柄の黄色いハンカチを取り出すと、立ち上がってすぐにある流しの蛇口を捻った。
一方の清継は感激していた。
憧れの妖怪を目の当たりにしているのだ。
幼い頃から憧れ続けた妖怪の主。
そして今回、彼は再び清継を助けてくれた。
「あ、あの、ぜひお話を!!」
清継が目を輝かせて夜のリクオを見る。
夜のリクオは、妖怪も逃げ出すほどの冷めた目で清継を見た。
「…殺されたくなければ、さっさと帰れ」
そんなセリフさえ感激する清継だったが、島は空気の読める少年だった。
「き、清継くん!帰るっすよ」
「何を言ってるんだ!憧れの方が目の前にいらっしゃるというのに!!」
島の言葉など聞かずに、清継は夜に詰め寄った。
「あ、あの普段はどこに暮らしているんですか!?」
夜は昼の腕やら全身やらを触って怪我を確認していたが、次々に降ってくる質問をうるさいと一蹴し、清継をじろりと睨んだ。
自分が睨まれたわけでもないのに、島は小さく悲鳴をあげた。
「帰れ」
「そんなこと言わずに、少しだけでも!」
「す、すぐ帰ります!!」
島が清継を引っ張って、ドアに向かう。
また話を聞かせてください!
名残惜しそうにする清継の言葉は無視して、夜は再び昼の方を向いた。
昼は乾いた笑いを浮かべていた。
「人気者だね、夜」
「何言ってやがる」
そこに、カナが濡れたハンカチを差し出す。
「これでいいかな?」
「ああ、悪い」
ハンカチを受け取り、夜は昼の腕の血をそっと拭いていく。
カナは昼の隣に座った。
昼にピタリと張り付くカナに、夜は眉を撥ねさせた。
が、何も言わず黙々と手当てをしていく。
「ごめんね、リクオくん。私のせいで」
「大丈夫だよ、そんなに痛くないんだ」
拭いても拭いても傷口から滲む血に、夜は顔を顰める。
着物を裂き、応急処置をする夜がカナを見た。
「おめぇも帰れ。こいつはオレがつれて帰るから」
「で、でも…」
渋るカナに、夜は不機嫌になった。
「おめぇにこいつが背負えるのかよ?」
カナはぐっと押し黙り、まだ心配そうな顔をしながらも、夜に追い立てられてしぶしぶ立ち上がった。
「…またね」
「うん、また明日」
にっこり笑う昼に、ようやくカナは顔を綻ばせた。
カナの背中を見送り、昼は夜を非難がましい目で見た。
「あんな言い方しなくても…」
「あ?」
夜の声が一段と低い。
どうやら、昼に対しても機嫌が悪いらしい。
「なんで、あいつらを庇った」
「なんでって…危ないと思えば助けるのは当然でしょ?」
「当然なわけあるか!おめぇはただの人間なんだぞ。敵うわけないだろーが」
「でも、見てるだけっていうのはできないよ」
昼はきっぱりと断言する。こういうときの昼は頑固だ。
真っ直ぐに夜を見つめる昼の眼に、夜は溜息を吐く。
「せめて、オレの名前くらい呼べ」
「…呼んだよ」
殺されると思った瞬間に浮かんだ名前。
あれは自分のものではなく、夜のものだったのだと気付く。
「殺されると思ったときにね、浮かんだのは君の名前だったんだ」
夜は目を見開いた。
「…そうか」
表情は変わらないものの、どこか喜んでいるように見える。
嬉しいのを必死に隠しているような。
ようやく機嫌が直ったらしい夜にほっとして、昼のリクオは立ち上がろうとした。
しかし、背中がズキリと痛み、立てなかった。
「動くな」
「でも、鴆くんのところに行って、薬もらわないと」
夜の肩を借りて、なんとか立ち上がる。
身体が悲鳴を上げるが、歩けないことはない。
夜が、昼の腕を掴んだ。
傷から滲む血をぺろりと舐める。
「なにするんだよ…っ!」
「治らねぇかな、その怪我」
「舐めたくらいで治る訳ないでしょ」
どこの幼稚園児だ、と昼は呆れた。
「だって、鴆に見せんだろ?」
「そうだけど」
「触らせたくねぇんだよ」
「あのねぇ」
舐めて傷が治れば苦労はしない。
だけど、自分だって早く痛みをとりたいのだ。
邪魔をするなと言ってやる。
「なぁ、治せよ」
「無理だって!」
夜は昼の後を付いて歩く。
のろのろとした歩みに、夜はひょいと昼の身体を抱え上げた。
「ちょ、ちょっと!」
当然、昼は暴れた。
「鴆のとこに、行くんだろ?」
昼がぴたりと静かになる。
「連れてってくれるの?」
「一人で行かすよりはマシだ」
「ありがと」
しかし、米俵のように担がれては打ち付けた背中が痛い。
「よ、夜。できれば、背負ってもらいたいんだけど」
「ああ、悪い…」
昼に背中を向けて、しゃがみこむ。
「ほら」
目の前の背中に、昼はそっと被さった。
首から前に、腕を回す。
「立つぞ」
怪我が痛まないように、ゆっくり歩いてやる。
夜が昼を護ると誓ったのは、ずっと昔の話だ。
だけど、自分は何度昼に怪我をさせただろう。
昼の特別になりたいと思っても。
人間相手に醜い嫉妬を覚えても。
昼を護れないようでは、まだ難しいのかもしれない。
だけど。
自分は決して寛大ではないから。
誰かと特別な存在を分け合うなんてことはできないのだ。
いずれは、昼の一番になってみせる。
心地いい夏風が二人を温かく包んだ。