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前回と同じ場面で、後半夜リク視点になります。
リクオ二重人格設定…
そして、まだ続きます。
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戸惑った顔をする男を、リクオは何の感情もなく見返した。
元々は、彼の人となりに好感を覚えていた。
彼は、奴良組の中でもリクオに肩入れする存在だったし、昼のリクオの幼馴染でもある。
いつからだろうか。
―――――鴆を疎ましく思うようになったのは。
【巴紋 2―夜―】
リクオという人間に関して、基本的には昼と夜とで人格が異なる。
記憶を共有しているといってもすべてではないし、夜のリクオは、知られたくない情報を意図的に隠すこともできる。
(今夜のように、な)
リクオは薬師一派の紋が入った羽織を纏う男を、冷静に観察した。
体調が悪いからなのか、夜のリクオが現れたからなのか、鴆は少し青白い顔をしていた。
大きく開いた襟の合わせから、刺青が覗く。
夜のリクオと同じ赤い目。
同じ銀色の短髪。
昼のリクオが心を寄せる相手。
自分が一番の理解者だというのに、夜のリクオではなく、鴆を選んだ。
(もっとも、まだ自覚はなさそうだが…)
徹底的に邪魔をしてやる。
あの日、あの夜。
夜のリクオが目覚めた瞬間から、昼の彼は自分のものなのだから。
「鴆。なんで俺たちが別の人格のまま存在しているかわかるか?」
ふいに落とされた質問に、鴆は顔を上げた。
考えたこともないという顔だ。
夜のリクオは鼻を鳴らした。
「気付くわけねぇな。そうやって、いつでも俺に…リクオに期待を押し付けてきた」
鴆の目が常になく大きく見開かれた。
「本当は、俺の力はすべて昼のあいつのものになる予定だった」
夜の自分なんてものが存在するはずはなかったのだ。
しかし、あの夜。
幼いリクオが妖怪を否定しながら妖怪の力を望んだあの夜。
夜のリクオが生まれた。
幼い精神では、矛盾した強い感情に耐え切れなかったのだろう。
「鴆、いいか。アイツに手ぇ出すんじゃねぇーぞ」
鴆は畳の上の拳を握り締めた。
苦渋の表情を浮かべる鴆に、リクオは目を細める。
「言いたいことがあるかい?」
「…約束はできねぇ」
「ほぅ?」
搾り出すような鴆の返答に、リクオは楽しそうな声を出した。
もっとも、目は笑っていなかったが。
「もうわかっていると思うが、俺はリクオが好きだ。だから、手ぇ出さねぇって約束はできねぇよ」
リクオは布団から立ち上がり、鴆の前で胡坐をかいた。
「おめぇは、俺が好きか、それともアイツが好きか?」
鴆は面食らった顔をした。
「おめぇーらは…」
同一人物だろう?
戸惑いを見せる鴆に、夜のリクオは言外の言葉を読みとる。
「違う、といったら、おめぇはどうするんだ?」
「あ?」
「俺とアイツは、全くの別人だと言ったら?確かに、身体も記憶も共有している。だけど、感情は別々にあると言ったら?」
鴆は息を呑んだ。
かつて、奴良組のために謀反を起こした牛鬼という妖怪がいる。
リクオの妖怪変化を解明しようと、文字通り命がけで質問した彼だが、結局リクオは彼にすら真実を語らなかった。
「俺は昼のアイツを自分のもんにしてぇ…って、言ったら?」
続けざまの言葉を、鴆は頭でうまく咀嚼できていないようだった。
鴆の顔色はさらに青褪め、頭がぐらりと揺れた。
「ちょ、待て…!」
頭を手で抑えながら、鴆は呻く。
「つまり、夜と昼のリクオはそれぞれ別の存在で、オメエは、昼のリクオが欲しい…そういうことか?」
「ああ…」
リクオは、本心を唯一の恋敵に告げた。
鴆は衝撃に打たれて、しばらく言葉を失ってしまう。
「俺は…それでも、あいつが好きだ…」
最後に、小さく苦しそうに吐き出された言葉が胸に痛い。
「そうか…」
それでも、譲る気はない。
現時点で昼のリクオの感情がこの男に向かっていたとしても。鴆という障壁がどれだけ大きいかわかっていても。
まだ恋だと昼のリクオが自覚しないうちは、引くつもりはない。
(いつまで、恋敵のままでいられるか…)
「覚悟しておくことだな」
すぅと目を細め、鴆に告げる。
直後、リクオは意識を闇に沈めた。
「お、おいっ!!」
鴆の慌てた声が聞こえるが、これ以上話をする気はなかった。
(もう、今夜はこの身体に手を出そうなんて考えねぇだろうしな)
身体が柔らかい感触に包まれる。
鴆が倒れこむリクオの身体を受け止めたのだろう。
時間的に、鴆が受け止めたのは昼のリクオの身体か。
(おやすみ、リクオ…)
最後に、愛おしい片割れに告げて、夜のリクオは意識を手放した。