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「巴紋」続きをあっぷです。
今度は昼視点。
昼リクが(他キャラもそうですが…)人格崩壊してます。
ぬら孫はキャラを掴むのに、時間がかかりそうですな。
そして、もう少し続きます。次で終わる予定
拍手をぽちっとしてくださった方、ありがとうございます!
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ずっと、鴆くんが好きだからなのだと思っていた。
【巴紋 3―昼―】
ちくり。
胸に走った痛みに、昼のリクオは顔を歪めた。
「リクオ様?」
雪女が不思議そうに、リクオの顔を覗き込んだ。
小さな痛みはすぐに霧散して消える。
リクオは雪女に「なんでもない」と笑った。
「そうですか…何事もなければよろしいのですが。何かあったらおっしゃってくださいね?」
「うん。ありがとう」
些細なことを心配する雪女に、リクオは温かい気持ちになる。
(妖怪なのに、しかも雪女なのに人の心を暖めるって、雪女失格だよなぁ)
口に出すと雪女を怒らせるので、心の中で留め置いてリクオは忍び笑う。
「そうだ、リクオ様!今日は鴆様がおいでなんですよ」
両手を合わせる雪女に、リクオは頷く。
「知ってるよ。さっき、姿を見かけたから」
祖父の部屋に消えた鴆の背中を思い出すと、リクオは再び胸の痛みを覚える。
「…リクオ様?もしや、またお加減が…」
「だ、大丈夫。心配しないで、雪女」
本当に、最近は様子がおかしい。
おかしくなるのは、たいていリクオが鴆のことを考えているときだった。
ひどいときには、潰れるんじゃないかと思うほどにぎゅぅっと胸が締め付けられることがある。
鴆が笑えば、嬉しい反面、ずきりと心臓が悲鳴を上げる。
(…胸が痛い…)
自分の身体は、どこかおかしいのだろうか。
部屋から出てきた鴆は、片手を上げてリクオに笑った。
「よぉ!」
「鴆くん、身体は大丈夫なの?」
身体の弱い鴆が、本家にいるとは珍しい。
「ああ。総大将に呼ばれたら来ないわけにはいくめぇよ。それに…」
にやりと笑った鴆は、リクオの側で腰を折った。
羽織がするりと鴆の肩をすべる。
「…おめぇに会えると思えば、体調なんざすぐによくなっちまうさ」
低く、耳元で囁かれる。
リクオは瞬時に、顔を赤くさせた。
「な、何言ってるの、もう!」
慌てるリクオを、鴆はカラカラと笑って見つめる。
その目がひどく優しくて、リクオは直視できなかった。
ズキン!!!
「つぅ―…」
リクオは胸を押さえた。
鋭い痛みが胸を刺す。
「リ、リクオ!?」
さらに、動揺した鴆の声が聞こえて、リクオは顔を上げた。
その拍子に、ぽろりと生暖かい感触が頬を滑った。
「どうした!?」
自分が泣いているのだと気付いたのは、鴆が羽織を目の前に差し出したときだ。
「何か悲しいことでもあったか?いじめられたのか?」
羽織りで乱暴に頬を拭かれる。
力加減を間違っているから、正直痛い。
「い、痛っ!違うんだよ、鴆くん!これはボクじゃ…」
ハタと動きがとまる。
自分でなければ、一体誰だというのだろう。
ふと、思い立ったのは銀色。
(…もう一人の、ボク?)
リクオの動きが止まり、鴆は心配そうに覗き込む。
「なんでもない。大丈夫だよ」
にこりと笑えば、鴆は少し頬を緩めた。
(答えてよ、もう一人のボク…)
身体を共有していても、相手のことが全くわからない。
せめて、会話をすることができればいいのに。
リクオは鴆に気付かれないように、深く息を吐いた。
桜の枝の上で、銀髪が風になびいていた。
この夢の狭間で彼と会うのは、久しぶりだった。
最近、夜の彼が己を避けているように感じる。
「よう、リクオ…」
「きみもリクオでしょ」
違いねぇ。クッと夜のリクオは笑う。
彼と話をしたいと思っていたが、いざとなると何を話したらいいか、リクオは悩む。
「どうした?」
声に促されて、リクオは木の下で膝を抱えて座った。
ポツリと呟く。
「久しぶりだね」
「そうだな」
リクオとは目を合わさず、夜のリクオは酒を呷る。
その姿が、鴆と重なった。
「…最近、鴆くんを見てると、急に胸が痛くなるんだ。」
酒を飲む、夜のリクオの手が止まった。
「へぇ…」
「きみなら、何か知ってるんじゃないかと思って」
リクオは木の上の片割れを見上げたが、夜のリクオは無言だった。
「…なぁ。ずっとここにいられればいいと思わねぇか?二人で一緒に」
ようやく聞かれたのは、今までの話の流れを無視した言葉。
しかし、寂しそうな赤い目に、リクオは文句を言うことはできなかった。
「…それはできないよ」
「わかってる」
とん、と軽い音を立てて、夜のリクオが枝から飛び降りた。
「帰りな」
ざわりと風で桜が揺れた。
まるで心の揺れを表しているかのように、今夜は風がある。
「夜のボク…?」
夜のリクオの顔が歪んだ気がした。
手が伸ばされる。
しかし、その手はリクオに触れる前に、パタリと落ちて。
「…俺を…すき…れば…のにな…」
桜の花弁が舞う。
茶色の目を凝らして、夜のリクオの口の動きを追おうとした。
しかし十分には、聞き取れず。
気付けば、朝だった。